GDとの一連の抗争が終わって。当初の予定通り俺はボスになった。
この『当初の予定』を迎えるまでの過程を思い返してみればまあ、なんというか一言で言えば大変だった。
ボスっていうのはもちろん、俺達CR:5のボスなわけで、色々気苦労は堪えない。
ただのヒラの構成員としてフラフラしていたのとはワケが違う責任の重さ。そのうち禿げるんじゃないか?なんて俺はベルナルドを笑えなくなってしまった。
あの長いような短いような抗争の間、俺達はずっとホテルをねぐらにしていた。
そのせいか、ホテルの居心地が良すぎたせいか、俺はずっとあそこを根城にするような気がしていたのだが、まあ結果だけ言うと違った。…まあ確かに言われてみれば借りていただけだし当然か。
出ていこうかと決めた翌日には、ルキーノの家具は再び運び出されたし、ベルナルドの電線の海は干上がった。
そして、解散!となったワケだけど、一つ問題が残った。
……なんつーか、自分で言うのもアレなのだけど、俺のおウチのことね。
俺だって他の奴みたいにおウチがないわけじゃなかったけど、ま、くちさがなく言えば俺のは穴蔵。ボスの住むとこじゃねえ!ってなったのだ。
だから新しいおウチを手配しなきゃってなったけど、何しろ急なことでぴったりなおウチは見付からない。でもホテルにはもう出てくって言っちゃった。だからってボスが穴蔵?ナイナイナイナイ!!!
なァんてことになった俺を助けてくれたのは、ホテルでも相部屋犠牲になってくれたアイツ。
ベルナルド
ルキーノ
「ウチにおいでよ、ハニー。可愛がってあげる」
「…なんか猫みたいだな?」
「仔猫ちゃん」
「ニャア」
ベルナルドは嫌な顔一つせずに俺を受け入れてくれた。だから、俺はその日の夕方にはベルナルドの家へ足を踏入れた。
前の家に私物を取りに行こうかと思ったが、大事なものなんて今首へ掛けてる両親の形見くらいのものだし。それに残してきた服だなんだはボスに相応しくないの一言で切り捨てられるに決まってる。
だから俺は今、手ぶらでベルナルドの家の前に立っているワケだが――
「……うおお。マジかよ…」
「どうした?」
「……これと比べたら、俺のおウチなんてホントに穴蔵だなあって」
「そうか?普通だろこれくらい」
「普通って……」
普通?これが普通ーー!!??
俺はあんぐりとしてベルナルドのおウチを見上げた。いや、おウチって言うよりは屋敷だろうな。いや…判りやすく一言で言えば豪邸って奴だ…
俺は横目にベルナルドの顔を伺った。ベルナルドは別に自慢気な顔なんかしていない。本当にこれが普通だと思っているらしかった。
……そうだよな、何たって幹部様だからな。俺がもし真っ当な方法で幹部に登り詰めてたら、俺もこんな屋敷を買ってたのかも知れない。
「お帰りなさいませ」
扉の前に立っていた黒服が、ベルナルドの姿を見て掛けよってきた。そして隣に立つ俺の姿を見つけて、ぎょっとして背筋を伸ばした。
「――……ボス……!」
「やァ、こんちは。俺暫くお世話になるけど、よろしく」
黒服が頷いて、ベルナルドを目で伺う。
「と言うワケだから、失礼のないように。いきなりで済まないね……客間は空いているね?」
「勿論です」
「結構――じゃあ、行きましょうボス」
そう言うとベルナルドは俺の背を押した。俺はベルナルドに肩を竦めて見せ、黒服に聞こえないように小声で、
「……俺、てっきりアンタの部屋に住ませてもらえると思ってたよ。ダーリン?」
「そうしたかったけど、ボスがホモだって噂が立つのはちょっとね。マフィアのボスは女にモテないと――……夜這いするよ、ハニー」
「ワオワオ。楽しみ」
俺達は肩を叩きあって、黒服が扉を開けてくれたベルナルドの屋敷へと踏入れた。
***
「どうハニー?気に入った?」
「……すっげえ。すっげえよベルナルド……!コレ、あのホテルにも劣らないんじゃない?」
「負けるのは夜景くらい、と自負しているよ」
そう言ってベルナルドはにやっと笑った。ベルナルドが貸してくれると言う客間は、もうそれはそれは凄かった。これと比べりゃ、俺のおウチなんか豚舎だ!
「これはこれで、カネの有り難みが染みるねえ…」
「何言ってるんだか。ボス?君はこんな家よりももっともっと良い家を立てないと。この部屋が三流に思えるくらいのね」
「そんな家、想像もつかねえよ…!」
俺はベルナルドに促されて、客間へと足を進めた。…やべえ、文句の付け所がねえ。どこもピカピカに磨かれてるし、フカフカのベッドはダブル。窓の景色だって中々のもんだ。
「どうだい、ジャン」
いつの間にか背後に立っていたベルナルドが、俺の腰を抱く。頷いて見せると、ベルナルドは俺の耳へ唇を寄せてきた。
「――俺の部屋も、見たいでしょ。ね、ジャン」
「あら、誘われてるのかしら……?」
「判ってるなら乗ってくれ――……こっちだ」
俺はベルナルドに手を引かれるまま客間を出た。誰もいない廊下を、二人きりで歩く。ベルナルドの家はチョーデカいから、なんとなく世界に二人きりみたいな気分になった。それは何だが、悪い気はしなかった……くそっ、俺も相当コイツにイカれてやがる。でもまあこんな広い屋敷なんだ、黒服は一杯いるんだろう。きっとベルナルドが人払いしてくれてるんだろうと推測する。
「ここだよ、ハニー」
「……扉のサイズが、なんつーか既に格が違うんですケド」
「まあね。さっきのが三流なら、こっちは二流かな」
「益々一流がわかんなくなったぜ…」
俺は驚きを通り越してもう呆れた。長身のベルナルドよりも、遥かに背の高い板チョコみたいな扉。これがお菓子の家だったなら、ヘンゼルとグレーテルはこれ一枚で糖尿病だ。
俺はベルナルドに促され、扉を開いた。扉は見掛けに反して、まるで羽のように軽かった。転げそうになった俺を抱き止めて、ベルナルドが笑った。俺はベルナルドに文句を言おうと――
「…………」
「どうだいハニー、俺の部屋は」
「……これと比べりゃさっきの部屋が二流に思えるんだが、俺の目はイカれちまったのかな?」
「いいや、正しい。君に見る目があって良かったよ」
「見る目も何も……」
俺はベルナルドに引きずられるように部屋に入った。きっと飛んでもない値がしたんだろう調度品は新品みたいにピカピカ。天井からぶら下がるシャンデリアはキラキラ。豪奢な絨毯はフワフワ。フカフカのベッドはキング…いや、キングってレベルか?
「……て言うかアンタ、こう言うの趣味だっけ」
「いや?別に大して興味もないんだけど、幹部がショボい部屋に住んでちゃ示しが付かないからね。でも――」
ベルナルドは俺へ蕩けそうな笑みを送ると、まるで騎士が主人にするように、恭しく俺の手の甲へ唇を落とした。
「…貴方が驚いてくれたなら、光栄です」
ベルナルドは唇を付けたまま上目に笑った。ちゅ、とわざとらしいリップノイズを立てて唇が離される。俺はこの後の展開に予想を付けながら、せめてもの抵抗に口を開いた。
「……なんかさ、慣れてない?他の奴にもしたこと、あんの」
「まあね。ご婦人方に中々有効な手段だから。……妬いた?」
「いいや。俺も今度やってみようと思って」
「へえ……でも駄目。妬けるから」
「ばーか………っん…」
手の甲から離れた唇が、俺の唇に重なる。薄く唇を開くと、その隙間からまるで魔法みたいにスルッとベルナルドの舌が入ってくる。ベルナルドは、なんと言うか、
「……なんかアンタ、性急じゃねえ?」
「君がボスになってから初めてだからね。……俺が結構お預け食らってたって理解してる?」
ベルナルドはどこか余裕なさげに笑うと、俺を容易く抱き上げた。…俗に言うお姫様抱っこと言うやつ。そしてベルナルドは俺をキングサイズのベッドの真ん中に横たえると、自分もベッドに乗り上げた。
「…アンタは一個忘れてる」
「なに……?」
「お預け食らってたのは、俺も一緒ってことさ」
俺は両手でベルナルドの頬を挟むと、首を起こして今度は自分から唇を重ねた。キスの狭間でベルナルドは「なるほどね」と苦笑した。
ベルナルドに余裕がないように見えたのはやっぱり間違っていなかった。それでもベルナルドはできるだけ優位に立ちたくなったらしく、それからキスは啄むだけで一向に深くならない。俺が痺れを切らして舌を出しても、その度に誤魔化すように唇を離されてしまう。俺は堪らずベルナルドを睨み付けた。
「いいかげんにしろよベルナルド…」
「何が?……いいな。その、堪えてる顔」
「なに……」
ベルナルドは恍惚とした笑みを浮かべた。気持ち悪い!と言ってやりたくなったが、どうも、俺も興奮が勝ってしまう。ベルナルドがそれを見越したようで、さっきとはまた違った、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「…挿れてほしくてたまらない、って顔、してるよ」
「ば……ッかヤロー!!!死ね!!二度死ね!!百万回死ね!!!!!!」
「ハハハ。可愛いな、ジャンは」
そう言ってベルナルドは俺の額へ、親が子供にするようなキスをした。だからそうじゃねえだろ、と言う意味を込めて睨み付けても、ベルナルドは喉を鳴らして笑うだけ。
「…アンタ楽しんでるだろ」
「可愛いジャンを満喫してるよ」
「…………」
ああ、そうですかそうですか。俺はベルナルドに聞こえるように溜め息を吐いた。ベルナルドが俺の髪を撫でながら、「どうした?」と訊いてくる。
「俺も楽しみたいなって思って」
「そうだね。じゃあ、ジャン。どうする?」
「ダーリンたら判ってるくせにィ。…こうする」
俺は下からベルナルドを抱き締めると、ごろん、と上下逆転するように転がった。ヒュウ、とベルナルドが口笛を吹いた。どうもベルナルドの掌の上から抜け出せてない感はあるが、ここで拗ねても意味はない。俺はベルナルドの体を伝うように下へ下りると、ベルナルドの足の間に入った。ベルトに手を掛けると、ベルナルドがちょっと驚いたような声を出した。俺はそれになんとなく胸がスッとした。
「――あー……なんと言うか…」
「なに」
俺はベルトの金具を外すと、シュッとそれを引き抜いた。それからズボンのホックへ手を掛けると、布越しにベルナルドのペニスの熱が触れて、ドキリとした。
「その、ジャン?」
ベルナルドは大分、困っているようだった。でもまあこれは、散々俺を焦らしたアンタが悪い。俺はベルナルドのズボンの前を寛げると、思い切ってパンツもずらしてやった。するとやっぱり余裕のないペニスが現れて、俺はベルナルドを見上げて笑った。ベルナルドは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
俺は思い切って、それを咥えようと――……
「すまん。ジャン……やっぱり駄目だ!」
「はあ!?」
ベルナルドは勢いよく身を起こすと、今正に咥えようとしていた俺の顔を押し退けた。
「変に焦らして悪かったよ!ああ……心臓に悪い……!」
ぷちぷちと俺のシャツのボタンをベルナルドが外し始めて、俺はやっと正気に戻った。
「心臓に悪いってなんだよ!?俺にそんなに咥えられたくないのか!?」
「そんなワケないだろ!凄く嬉しかったし興奮したけど、俺はそんなことよりジャンに早く挿れたいんだよ!」
「なッ……!?」
カッと顔が熱くなって、俺は咄嗟にベッドの上を後ずさった。しかしベルナルドはそれを許さない。ベルナルドは痛いくらいに俺の腕を掴むと、ぐっと俺を引き寄せた。
「はなせぇ!!変態!!」
「変態で結構」
「開き直るな!!!」
しかし抵抗しても結局、俺はベルナルドに靴下まで残さず全裸に剥かれてしまった。…まあ、元より本気で抵抗などしていないのだけど?
そんな生まれたままの姿の俺に反して、ズボンの前を寛げただけのベルナルド。
屈辱的な状況に抗議の視線を向けると、何が愉快なのかベルナルドは笑った。…ホント変態。
俺の眉間の皺へベルナルドは口付けを落とすと、今度こそ真面目に俺を押し倒した。ベルナルドは人差し指と中指とをまとめておざなりに嘗めると、人差し指を俺のアヌスへ宛がった。そのまま突っ込むのかと思ったら、不自然に指を止めて俺を見た。
「……なんだよ」
思ったより拗ねた声が出てしまって、俺は内心焦った。ベルナルドはその声色に気付いたらしくにやっと笑った……耳ざといこって。俺は再び逃げ出したくなったが、ベルナルドが覆い被さっている手前どうしようもない。ベルナルドは俺へ、お茶目にウインクして見せた。
「痛くても多少我慢しろよ」
「んな……ッ、く、ぅ…ンのバッカやろ………」
言い終わるが早いか、挿れたのが早いか、ベルナルドの人差し指の先が、俺のアヌスへ分け入ってきた。これぐらいでへばってちゃどうしようもない、と頭じゃ判っていてもキツいもんはキツい。
「力抜いて…深呼吸とか」
「…ラマーズ法でもしてみようか」
「誰の子供かな」
「ひどォいダーリン。アンタに決まってェ……あ、くっそ…もっとゆっくり……」
アヌスへ突っ込まれる指も、明らかに余裕がなかった。本音を言えばもっとゆっくり時間をかけて欲しいんだけど、それをベルナルドにさせるのは酷だろう。俺は目を瞑ると、できるだけリラックスしようと息を吐いた。瞼に湿った感触を感じて薄く瞼を開くと、ベルナルドが俺の瞼に口付けしたのだ、と判った。
「ベルナルド、キス――ふ、ぅ……」
やっぱこいつキス上手い。どうにかついて行こうと躍起に舌を絡めているうちに、アヌスの中の指は二本に増えていた。俺の中も大分解れて、最初のような圧迫感は大分なくなっていた。
「…ジャン……もう……?」
唇を離して、でもまだ鼻先のふれあう距離でベルナルドが訊いてきた。口を開く余裕がない俺は無理に笑みを作って、ベルナルドへただ頷いてやった。それを合図にアヌスからベルナルドの指が引き抜かれる。俺はそれで、てっきり挿れられるんだと思って身構えていたら、ベルナルドは身を起こして、俺をゴロンと俯せにさせた。
「…ちょ、あ、おい?」
「腰だけ上げて」
「はあ!?どういう…」
「この方が負担が少ないんだって」
「だ、だあああ!?そうじゃなくてちょっと待て!?」
「ジャン……」
ベルナルドの言い分は分かる。確かに負担が少ないのは良いことだし、そもそもあんまりしっかり慣らしてないんだから、その方が良いに決まってる。…だからと言って。
「…ベルナルド。それ、女豹のポーズって言うんだぜ?」
「らしいね」
「いやいや。女豹?俺がそんなポーズすんの?女豹?無!!!理!!!」
「ジャン」
…俺は恐る恐る、首だけ振り返った。
「……マジですんの」
「うん」
「マジかよ……」
ズボンを膝まで下げて、スタンバイしてるベルナルドを見たら俺はもう何も言えなかった。
…いやお前、どんだけ余裕ないんだよ。くっそ…て言うかホントにやる俺も何だよ!!
「……やったぞ」
俺は俯せで腰だけを上げた体勢になると、ベッドに顔を埋めた。羞恥でもう顔だけじゃなくて、全身真っ赤になっている気がした。
「良くできました」
「…うっせーばか。さっさと挿れろ」
「ムードないなあ」
「チッ。誰のせいだよ。ばーかばーか」
「はいはい――」
…これから何されるかなんて解りきっていることなのに、俺は内心生娘みたいにビビっていた。こっちの顔が見られないのは嬉しいけど、こっちからも顔が見れなくてこんな体勢なんて、マジでレイプみたいじゃない?
「…挿れるよ」
「……お、おう!何時でも来い!!」
「じゃ、失礼します」
「あら、お客様?ああッ!ダメよ!ワタシには旦那と息子が…」
「奥さん…!って、何話してんだが」
と言って苦笑したのはやっぱりベルナルドで。俺はちょっと安心した。ベルナルドが再び「挿れるよ」と言って、亀頭を俺のアヌスに押し当てた。
「……ッ…ぅあ……ヒ、ぅ」
初っぱなから怒張しきったベルナルドのペニスを、捩じ込むように挿れられ、俺は少しでも痛みを逃そうとシーツをきつく握り締めた。
「キッツいな……」
ベルナルドの苦しみと恍惚の混じりあった声色。ベルナルド自身、もうイきたくて堪らないだろうに、ベルナルドは俺を気遣ってゆっくり挿れてくれているらしかった。
「は、ぁ――……」
俺は苦しい呼吸の中、出来るだけ深く息を吸った。腰を上げる力以外、どこにも力が入らないよう力をコントロールする。額から溢れる汗が、シーツを濡らすのが判った。
「…入った。入ったぞ、全部……」
「判るっつーのそんなの……」
やり遂げたような声色で言ったベルナルドを揶揄して、俺は浅い呼吸をする。そのうちにいきなりベルナルドの掌が俺の太股に触れて、俺はぎょっとした。その掌があやすような優しい手つきで俺の太股を撫でたが、その手は太股をゆっくりと這い上がると、俺のペニスを掴んで前後に扱いた。
「ベル……ちょ、んな……」
体勢のせいで敏感になった感覚が、ベルナルドの掌をいつもよりはっきりと伝えてくる。ベルナルドの掌に夢中になっているうちに、ベルナルドが腰を引いた。一瞬の喪失感があって――
「ごめん。もう、無理…ッ!」
ギリギリまで引き抜かれたそれが、一気に奥まで叩き付けられた。頭が一気に真っ白になって、一瞬言葉も出なかった。ベルナルドは俺のを扱く手はそのままに、性急に思えるようなスピードで突いてくる。
「もっと、ゆ…っくりィ……ッ!」
と、懇願してもベルナルドのスピードは変わらなかった。最初はキッツかったけど俺も段々気持ちよくなってきて、次第にどうでも良くなった。
「ジャン…!」
ベルナルドの俺のをペニスを扱くのとは逆らしい手が、俺の背を撫でた。
俺はもう、ベルナルドの顔が見たくて見たくてしょうがなくなっていた。きっと俺の顔なんかもうぐちゃぐちゃで見せたくないけど、それを見せてでもベルナルドの顔が見たくてたまらなかった。だからこの体位はもう、絶対しないぜ――……なんて誓う俺。
「ベルナルドぉ、――もう…イ、………ッ」
「……ああ、俺もだ……!」
そう言うとベルナルドはラストスパートを掛けた。俺のを扱く手も激しくなって、俺はその両方に翻弄される。
「…ジャン」
ベルナルドのその一言の声色で、俺は意を察した。
「――いいよ。…中に出せ、よ……ッく、ぅ―あ、あ……ッ!!」
「く、……!」
俺が先に果て、その反動でアヌスが収縮したことで、ベルナルドも俺の中で果てた。ぬるい温度が腹に溜まる。ベルナルドは俺のアヌスからペニスを抜くと、俺の隣に寝転がった。俺も酷く痛い腰を下ろして、楽に寝転がる。寝返りを打ってベルナルドの方を見ると、目が合った。
「…この体勢は、もうしない」
「そう?判った」
ベルナルドは聞き分けよく言って、俺の顔を両手で包み込んだ。理由は訊かれなかったので、教えてやらなかった。
* * *
――その後。
俺は「手伝おうか」なんて言うエロオヤジ……もといベルナルドを断って、ベルナルドの部屋備え付けの風呂に入った。
想像していた通り、あのホテルのシャワールームよりも更にバカデカい、ベルナルドに言わせりゃ"二流"の風呂から上がると――
ベッドに腰掛けて、ベルナルドが項垂れていた。
ベルナルドは俺の姿を認めるとハッと顔を上げ、気まずそうに目を逸らした。俺はその様子にただならぬものを感じた。
「……何か、あったのか」
ベルナルドは躊躇い。
「ああ、大事件だ。……済まないジャン」
「なに?」
俺は風呂場の扉の前に立ち尽くしたまま、ベルナルドを見つめる。大事件?まさか、…GD?
「GDか」
「違う。もっと身近なことで…」
「はあ?まさか、裏切り…」
「いやいや。もっと何て言うか、しょうもないことなんだけど」
「はあ……?」
ベルナルドは覚悟を決めたように俺を見据えると――
「君の服を洗濯してやろうと思って、今洗濯中なんだ」
「はあ」
……話が見えない。
「なんだ?俺のポッケに爆弾でも入ってて、洗濯機が爆発したか?」
「まさか。入れてるのかい?」
「んなワケねーだろ」
「だろうね。…なんと言うか、つまり。――……ああ、ところで君今日、手ぶらで来ただろ?」
「唐突だな。それ、が――……」
……あれ?
俺、手ぶら。服、洗濯中。俺、風呂上がりで全裸。あれ。あれっ?もしかして……
「…服がない」
「ザッツライト!」
「ルキーノ。頼ってもいい?」
「俺を選ぶとはお目が高いな。任しとけ」
そしてその数時間には、俺はルキーノの車で、とあるアパルトマンの前に乗り付けていた。先に車から下りたルキーノが車のドアを開けてくれる。
「どうぞ?プリンセス」
そう言って手を差し伸べるルキーノの仕草は慣れたものだ――じゃなくて。
「…ここ、ドコ」
「俺の持ってるアパルトマンさ。その一番良い部屋をとりあえず開けてある。間繋ぎにゃ十分過ぎるくらいだ」
「間?…俺ここに住むんだろ?」
「わかんねえ奴だな。ここはお前の家が建つまでの繋ぎだ」
「俺の家え??」
…だから、ここじゃないの?クエスチョンマークを浮かべる俺へ、ルキーノは百万ドルの笑顔で笑って見せた。
「俺がボスに相応しい、ピッカピカの豪邸を建ててやる。それも、贅沢すぎて怖くなるような奴をな。それまでここで辛抱してろ」
「はあ…。怖く、ねえ――」
俺はルキーノの手を借りて車から下りると、そのアパルトマンを見上げた。
古めかしい赤レンガでできたアパルトマンは、ボロいと言うより逆に高貴な感じがする。颯爽と歩き出すルキーノの後ろを、俺は溜め息を吐きながらついて行った。…張り切っちゃって、まあ。
「ここだって悪くはないんだぜ?外見はアレだが、内装は中々ゴージャスに改造してある」
「あー。確かにこれは…」
ルキーノに招かれてアパルトマンの中に入ると、確かに中は全然違った。外見は時代を感じさせる風貌だが、中はきらびやかで美しい。掃除も行き届いていて、土足で上がるのが躊躇われるほどだった。
「お前の部屋は最上階だ」
「まじ?…階段?」
「エレベーターがある。お前がそうしたいってんなら、階段を使ってくれて構わないぜ?」
「バッカ無茶ゆーな!」
「冗談、冗談。お前の足腰を立たなくさせる役を、階段なんかに譲らねえよ」
「お前な…」
「照れるなよ。可愛いだけだぜ?―――…よっ、と」
「ちょ…ルキーノ!」
「誰も見てねえよ」
「…………」
ルキーノは豪快に笑うと、俺をお姫様抱っこしたままエレベーターに乗った。
一体何の少女小説だよ…ったく。抵抗するのも馬鹿らしくなって、俺はルキーノの腕の中顔を覆った。ルキーノが兵隊をアパルトマンの前に置いてきてて良かった。誰にもこんなとこ見られませんよーに!!!
エレベーターのボタンのライトがゆっくりと下から上に点滅し、チン!と甲高いベルの音でエレベーターは止まった。重い音を立てて扉が開くと――……
「…そこは不思議の国でした。なんちゃって」
「なんだそりゃ」
「あー…そんぐらい、スゲーってこと」
扉が開くと、一階よりも更にきらびやかな内装が俺を待っていた。ここはどこだ?本当にアメリカか?どっかの宮殿じゃなくて?
「この階だけは一階層で一部屋だ。どうだ、広いだろ?」
「広すぎて持て余しそうだ」
「そこは慣れてくれ。お前にはもっともっと広い家を建ててやるつもりだからよ」
ルキーノは部屋に――と言うかその階に――上がると、俺をソファの上に下ろし自分もその隣に座った。ぐるっと部屋を見回してみると、…美しすぎて、カルチャーショック。俺が入所前住んでた部屋は、もしかしたら豚舎だったのかもしれない。
「――て言うかルキーノ。何でお前が俺の家建てるんだ?」
「言っとくが、俺が工事するワケじゃないからな。俺が担当するのはデザイン。立地はイヴァン。手続きはベルナルド。ジュリオは…なんだったかな。とにかくお前の新居は、俺たち幹部からのプレゼントさ」
「へー…みんなボス想いだなあ。感激感激」
「金は組の方で出してくれるってカヴァッリ顧問が言ってるから、精々好きにやらせて貰うさ」
「なるほどう」
「……ジャン?」
「んあ?なに――……」
…気が付くと、ルキーノの顔が俺の上にあって、背中の下にソファがあった。俺を押し倒したルキーノが獰猛に笑う。俺も何だかもう慣れたもので、あまり動揺もしなかった。
「…ここ、ラブホ?」
「それか娼館にしようと思ってるが、まだ開業してないからピカピカさ」
「俺が記念すべき一人目って?嬉しくねえなー」
「気に入ればこの階はお前にやるよ。他の階が少々、騒々しいかもしれないが」
「要らねえよこの、エロライオン…」
俺はルキーノの首に腕を回して瞼を閉じた。
――夜が明けて、朝。
目が覚めるとルキーノはいなかった。
体の上には何処かから持ってきたらしいブランケットが掛けられていて、俺の脱ぎ捨てた服がソファの脇に畳んで置いてあった。服の上には置き手紙がある。
「『10時に迎えに来る。愛してるぜ、ジャン――ルキーノ』……キザだね、ホント」
俺は手紙を服の上に戻すと、ソファから降りた。素っ裸でシャワールームを探す途中、見つけた時計が示す時間は午前9時過ぎ。風呂に入れば結構丁度良い時間になるだろう。素足のままペタペタ部屋を歩き回って、俺はやっとシャワールームを見つけた。
部屋がでかいだけあって、シャワールームも馬鹿でかく、バスタブは大人が二、三人のんびり入れそうな程だ。壁の一面には大きな鏡が貼られていて、自分の姿が余すところなく見える…
「ルキーノの奴、変なとこに痕つけてんじゃねえよ…」
一応見えないところに付けると言うモラルは守ってるらしいけど、ルキーノが痕を付けたのは脚の付け根の辺りだ。
「……変態」
俺は溜め息を吐きながら、シャワーの蛇口を捻る。シャワーの水がルキーノの指の感覚を洗い流していくような気がした。それでも考えるのはルキーノのことだ……
「……なんで」
シャワールームの中に、俺の呟きが反響する。
「なんでアパルトマンなんだよ…」
シャワールームを出るとルキーノが来ていた。
「よう、ジャン」
挨拶をしながらも、ルキーノは風呂上がりの俺をバスタオルでくるんでくれる。…そういや、タオルも着替えも用意してなかったな。
「しっかり拭けよ、風邪を引くな。拭いたら服は、そこに掛けてあるから」
と言ってルキーノは、シャワールームの側のソファ(さっきのソファとはまた別だ)へ顎をしゃくった。するとそこには、どうやらルキーノがコーディネートしてくれたらしいピカピカの衣服が畳んで置かれている。
「因みに、服はそこのクローゼットに入れてあるから俺が来れない時は適当にコーディネートしろよ?言っておくが適当、はだいたい、ではなくきちんと、の方だ」
「はいはい。わーってるわーってる」
俺は身体を適当に拭くと、髪をガシガシと拭きながらソファの側へと歩いて行った。畳まれた衣服の中から、ぞんざいにシャツを引っ張り出す。
「…わーっ。高そうー。ねえお兄ちゃん、このシャツ一枚でキレーなお姉ちゃんを何人侍らせられるの?」
「訊かない方が良いぜ?シャツを売り払いたくなる」
「……やっぱスッゲー高いのね…ハハ……」
相変わらず、金銭感覚が全然違う!俺は呆れを通り越して笑うと、ルキーノの用意した衣服を着た。その間もルキーノが俺の髪を拭いてくれる。マンマが子供にするような優しい手付きだ。
「お前絶対ドライヤー使うなよ?折角のブロンドが台無しになる」
「あー大丈夫大丈夫。俺アレ使ったことないモン」
「……はあ?」
「何時だって自然乾燥。エコだろ?」
「タオルドライすらしてなかったんだろうな……それで良くこんな綺麗な金髪で居られたな」
ルキーノは俺の髪を一筋掬い取ると、まだ湿っているその毛先に口付けた。どこに触れられたと言うワケでもないのに、カッと身体が熱くなる。
「好きなんだよお前の髪…俺のためと思って、大事にしろよ」
「あー……。もう、キザだねホント……」
「次来る時には、素敵な髪飾りでも用意して来てやるよ」
「勝手にしろ、バカ」
服を着終えてルキーノを見上げると、どうやら満足したらしいルキーノがタオルをソファに置いた。
「じゃ、行こうかボス?」
「あいよ、グレゴレッティ。今日は何処へ連れてってくれるんだ?」
「そうだな――」
上機嫌なルキーノの後ろについて、俺はエレベーターに乗った。扉が重い音でゆっくりと閉まり、俺は部屋を後にする……俺はルキーノを見上げた。
「…………」
質問しようかと思って、やめた。なんか、…怖くて。
なんでアパルトマンなんだ?……なんで、あんたの家じゃないんだ?やっぱ、奥さんの……
「どうかしたか?ジャン?」
気が付くと、ルキーノが不思議そうな顔で俺を見下ろしている。何でもねえよ、と返しておいた。
「別に送ってくれなくても良かったんだぜ?」
一人で帰れるのに、と主張する俺をルキーノが鼻で笑った。
「お前を一人で帰して、お前が迷子になってみろ。CR−5総出で捜索だぜ?そっちの方が手間だろうが」
「嘘でもそこは心配だからって言えよ。あんたの十八番だろ?」
「俺が嘘つきみたいに言わないで欲しいな。お前にまで気を遣うことないだろう?わざわざ口説かなくったって、お前は俺の…」
「ああはいはいはいはいわかってます!!」
軽口を叩く俺たちの後ろで、エレベーターが閉まった。その音が思いの外大きくて俺は思わず息を詰め、そのせいで沈黙が落ちた。一度口を閉じてしまうと、中々会話を再開できない。これまでどんな風に話していたっけ、とすら思った。口を開くとあの疑問が零れ出そうで。
「…………」
ルキーノが何か口を開きかけ、そして止めた。何だよ、と俺のせいなのに怒りが沸く。はっきり言えよ、と言いたいのはルキーノの方のはずだ……あー、くそ。
「…ルキーノ。あんたに聞きたいことがあるんだけど」
ルキーノは黙ったまま、視線だけで続きを促す。酷く真剣な面持ちだった。
「なんで、アパルトマンなんだ?やっぱ、…嫌だよな」
「何がだ」
「あんたの家に俺が入るのはさ、…まだ」
「……そんなこと、思ってたのか?」
「…………」
いたたまれなくなって、俺は目を逸らした。また気まずい沈黙が落ちて、俺は言わなきゃよかったと後悔する。ルキーノが溜め息を吐いた。
「なんだ、そりゃ……」
ルキーノが困った顔で頭を掻いた。呆れられたことに萎縮して、俺は俯く――……
「…バカだな、お互い」
「え……?」
思わず顔を上げると、苦笑するルキーノの顔が目の前にあった。驚いている間に抱き寄せられて、触れるだけの口付けをされる。それでもまだ目を白黒させる俺を、ルキーノが小さく笑った。しかしルキーノはすぐに自嘲するような笑みを浮かべ。
「――俺はてっきり、…お前の方が来たくないだろうと思ってな。変な気、使っちまった」
「嫌なワケ、ねえだろ…!?あんたの奥さんと娘さんのこと、もっと知りてえよ。……あんたを貰った、礼儀としてもさ」
「ジャン……!」
ルキーノは瞠目し、それから泣き出しそうな笑みを浮かべた。俺はルキーノが俺だけに見せてくれる、こいつの弱さが好きだ。…頼られてる、って気がするし、守ってやりたいとも思う。俺ができることなんてたかが知れてるケド。
「……ルキーノ」
俺は背伸びをして、ルキーノに口付けを返した。すぐ離れた唇を追いかけるようにルキーノが身を寄せてきて、深い口付けになる。
「……ジャン、愛してる」
「俺もだよ、ルキーノ…愛してる、ぜ?」
「お前は俺が、…絶対に守る。オメルタに誓ってでも」
「ばァか。誓わなくていい。テキトーに守れる範囲で守ってくれよ」
「…ジャン、俺は真剣に……」
「俺だって真剣だよ。俺を守れなくて、オメルタが守れなくて、ルキーノが死ぬなんて絶対駄目だ。奥さんと娘さんに申し訳ないし、何より俺が絶対嫌だ。……もし俺が誰かに殺されたら、復讐なんかしなくていい。年に何回か…いややっぱ寂しいから月一で、墓参りに来て馬鹿話でもしてくれ。それで十分だよ」
「駄目だ」
「ルキーノ…」
…復讐に苦しむあんたなんか、俺はもう見たくないんだよ。わかってくれねえのか?
俺は伏せていた目を上げて、ルキーノを見た。真剣な面持ちをしていたルキーノは――しかしすぐに表情を崩した。
「――毎日、行く!」
「なんだよそれ…ハハ…!バカ野郎!」