そうだよねえそんなことないよねえ、と音也はゲームに戻っていった。振ってきたのは向こうの方だと言うのに、幕引きは驚くくらいあっさりしている。それどころか、それを――拒絶したのは私だと言うのに――打ちのめされ――驚き――哀しんでいるのも私なのだった。

おいお前、何考えてやがる。今のは一体、どう言う趣旨で。まず本気?それとも冗談?何とか言えよ、ねえ。
なんてぶつける勇気はなかった。


事の発端は、一時間前にも遡らない。30分前にも遡らない。遡るのはほんの数分前。秒針がたったの数回、回転する間だ。



『ねえトキヤ』

遅れて帰ってきた私に、いつもの『おかえり』を言うよりも早く。ゲームの手を止めて振り返った音也は。

『俺のことが好きなんだよね?』

――…頷いたら、どうなったんだ?
頷かなかったからこそ、靴も脱げないまま玄関に立ち尽くしているとも言えた。時々真っ黒にロードするゲーム画面に、映り込んだ私の顔は酷く戸惑っている。なのに音也と来たらいつもと変わらず。その後頭部を秘かに睨んでもどこ吹く風だった。


『――そんな訳ないでしょう、男同士で』

せめて傷付いた顔の一つでもしてくれたら。
…いやもっと酷い気持ちになっただろうか……


「入らないの?」

ハッと顔を上げれば、音也はゲームの手を止めて振り返っていた。数分前とのシンクロ。「あ……」今更言っても遅いだろうが。やめる。「入ります」言い終わるよりも早く、音也はゲームを再開する。もやもや。苛立ちに任せて靴を脱ぎ捨てた。荒々しく床を踏んでも、振り返ってはくれないし。ええい。
定位置、ベッドの縁に腰掛けて制服を脱ぐ。音也は無反応。おい。

「音也」
「んー?」
「………何でもありません」
「そうなの?」

――…馬鹿らしい。ブレザーをハンガーに掛けると、することがなくなった。――いつもは、何をしてるんだっけ?

課題――出てない。
夕食――済ませてきた。
読書――図書室に行かないと。
音也――は、


「トキヤ」

油断するのも、三度目だった。いつの間にか静かになった室内。コントローラーを放り投げて、音也は私の隣に座った。「……はい」今だったかもしれない。今更じゃないかとも思う。どこを見ていいかわからず、足元を睨んでいれば。

どうということもない世間話は耳を素通りした。上の空の相槌を音也は咎めなかったし。授業のこと。今日のテレビのこと。世間を騒がすニュースのこと。――そんなことより、もっと聞きたいことがあるのに。「結構顔に出やすいよね」何が…

「ヘンに強がるから、いつも変なことなっちゃうんでしょ?そうならそうと」
「…………」
「わかんないから」
「――…あ」


針は廻る。

……音也はやれやれと息を吐いた。「あ…」結局何も言えなかったふがいなさに下を向いて。シーツを握りしめた。「ねえ」ハッと顔を上げれば。くすぐるような笑みでさ。
「俺のことが好きなんだよね」なんて。決めつけるようなこと言って。「そんな君なら好きなんだけど」いい加減にしないか!