それからまた何日かが過ぎた。何か語れるような劇的なことがあったら良かったんだけど、良くも悪くも何もなかった。
――…あの翌日。予定通り閣下は宿舎を発ったらしい。らしいと言うのは、実際に俺が目にした訳ではないからだ。これはエズラから翌日の朝食時に全体で聞いた話だ。閣下はその朝、朝食よりも早い時間に、エズラの見送りで宿舎を後にしたと言うことだ。
俺はそれを聞いて、違和感と苛立ちの入り交じったものを感じた。普通は最後に、話の一つでもして帰るのがセオリーだろう?――本当に自分勝手なやつ。
そして数日後の今日、俺はまた戦場に立っていた。あの日以来天気は持ち直していたが、今日はまた崩れて小雨を散らしている。軍服の上に羽織った雨合羽は、空と同じ灰色をしていた。しかしそれはもう、赤い雨を浴びて黒ずんだ色に変わっている。霧雨は申し訳ばかりに血を洗い流すだけだった。
俺はぬかるんだ地面をのろのろと歩きながら、クロエを探していた。目を離した隙に、いつの間にかまたいなくなってしまったのだ。
戦場では、例え作戦があったとしても真実には誰もが一人だ。他人に気を掛けてなんかいれば、危ないのは自分だ。
そして、クロエは強い。特に銃の腕なら、マキナにも引けを取らないんじゃないだろうか――と俺は勝手に思っている。銃を持っている時のクロエは、真に機械らしい。遥か遠くの標的すら、風の強い日すら雨の日すら、彼は狙いを外さない。
だから、クロエを探す俺の行動は、そんな風に考えればはっきり言って狂っている。心配の必要などなくて、俺は自分のことを心配するべきなのだが。
それでも、クロエのことを思うと胸がざわついた。
…クロエには一つ、欠点があって。
何かと言うと近接戦が苦手なのだ。弱い、とは違う。どちらかと言うとむしろ強い――が、近接戦でのクロエはどこか自虐的に見えるのだ。肉を切らせて骨を断つ、と言うか?どこか妙にハラハラさせられる。
それはただ単に奴の性分なのかもしれない。でも俺はクロエの生い立ちを知ってから、それが生い立ちに起因するものなんじゃと思い始めていた。五年も一緒に暮らした家族から死んだものと扱われりゃ、自虐的になるのもしょうがない気がした。そして仮にその通りだとしたなら、この一件が与えた影響は計り知れないと思うんだ。
――クロエ、何処にいる?
俺は戦場で一人立ち尽くした。