「ユーゴ、おはよう」
「……アカル」
「おはよう」
そう繰り返すと、アカルはユーゴの隣の席に腰を下ろした。いつもクロエが座っている席だ。朝礼を終えた食堂に人影はまばらで、席なんか幾らでもあると言うのに。
「コンビ解消?クロエは?」
「なんか作戦とかで…いやまず組んでねえよ」
「へえ。寂しい?」
「アホか」
呆れた視線を向けてやると、アカルはにっと唇を釣り上げた。俺はアカルに何でもない風に応対して見せながら、実はちょっと――いや結構、動揺していた。仲が悪いわけじゃないけど、別に良いわけでもない。アカルは良くも悪くも回りから距離を置かれているから、必要以上には踏み込まないスタンスのはずが。
マキナを#4の首席とするなら、スメラギアカルはその次席。マキナを殺人兵器とするなら、スメラギアカルは化け物だ。
#4内で一番恐ろしいのは誰かと訊ねると、マキナよりも、スメラギアカルを挙げる声の方が大きい。
スメラギアカルは十数年前、アカルが6歳の時に警察によって保護された。アカルは生まれた時から、殺人鬼夫婦の愛を一心に受けて育てられた。謂わば、殺人鬼のサラブレッドだ。
「聞いたぜ、クロエのこと」
「なに」
「まさか、西園寺家の御曹司だったなんてなァ。いやはや畏れ入る」
「ああ……」
クロエの名字が西園寺であることは、知っているものなら知っているから、西園寺家と繋がりがあるんじゃないか?と予想することは誰にでもできるだろうし。
「もう伝わってんの」呟くとアカルが驚いた顔をした。
「…なに」
「いや――あの」
「なに」
「……ごめん。鎌掛けただけ」
「…………」
こいつ。眉根を寄せてアカルを見つめると、アカルは慌てたように手を振った。
「いやあの、まあ――…ある程度確信は持ってたから訊いたんだけど」
「………どういうこと」
「クロエが閣下の部屋に行くの見たやつがいてさ。名前のこともあるし…」
「ああ、そう…」
それならまあ、あるか。と思って脱力する。そんなの見たら誰でも関係を疑う。名字が同じじゃなかったら、もっと下衆な疑いが掛かったことだろう。アカルは調子を取り戻して笑うと、早口にまくし立てた。
「まあ何て言うか、やっぱそうかあ!みたいな感じだなあ。あいつちょっと雰囲気あるし」
「…そう?」
「育ちが良さそう」
「それはある」
「だろ?でもまあ、それがムカつくやつもいるだろうけど」
――それが完璧に的を突いた発言だと、アカルは知る由もないが。もう十何年も前に付いたと言う、クロエのあの裂傷。クロエの態度に苛立った誰かがやったとクロエは言っていたけれど、…そう言えばそれ、誰だよ。死んでればいいな、とか腐ったことを思ってすぐに打ち消した。どうも最近の俺は、クロエの肩を持ちすぎる。
「…ところでアカル」
「ん?」
「何か用でもあったんじゃないの?」
アカルはわりと他人のことに淡白で、高々知り合いが軍閥出だと解ったくらいで食い付く野次馬ではないんだが。『だってだからって、俺に何か良いことがあるワケじゃないだろ?』――くらいは言いそう。なのにアカルはらしくもなく苦笑する。
「あー…うんまあ、一応済んだよ」
「はあ?――わざわざ、噂を確かめたのか」
「まあ、そう」
「…珍しいな」
「………良いじゃん別に」
「なんでも良いけど…へえ」
どうも可笑しくて唇を歪めると、何だよってアカルがばつが悪そうな顔をした。あまりネタにすると箸が凶器に変わる気がして、俺は慌てて顔を背けた。アカルはまだ何か言いたそうだったが、結局椅子を思い切り蹴られただけで終わった。会話も終了したようだったので、俺は席を立つ。今朝の伝達では今日は出兵とのことだが、俺は免除されていた。異例も異例だがこれは司令官命令である。一体どんな風の吹き回しだか、俺はエズラに呼ばれていた。