けたたましいベルの音で目を覚ます。

「ん……?…ああ、」

何の音だよ、と勘繰るのも束の間。何のことはない、ただの目覚まし時計のベルだ。ともすれば落ちそうになる目蓋を、必死の思いで持ち上げて、餞別の目覚まし時計を持ち上げる――朝礼20分前。いつも通り。俺はベッドの下段から這い出すと、ベッドの柵に足を掛けて上段を覗き込んだ。

「おい…朝だぞ」
「…………」
「起きろよーおいこの多飯食らい…食いっぱぐれても知らねえからな」
「………む?」
「朝飯だぞ」
「……食べる」
「じゃあ起きろ」
「あー…う、ぅうう…あー」
「……後は自力で起きろよ」

とりあえず精一杯の面倒は見た。
俺はベッドの下段に引っ込むと、寝間着のシャツを脱ぎ捨てた。暑かったのかもしかして嫌な夢でも見たのか、寝間着は少し湿っていた。昨夜のうちに置いておいた軍服のシャツを広げた刹那。

「……ぅ」

ゴン、と不穏な音に続いて唸り声がした――また天井に頭をぶつけたんだろう。毎朝繰り返される事態に唇を歪めた。シャツを羽織ながら声を掛ける。

「起きた?」
「…起きた」
「早く着替えろよ」
「あー…」

シャツを着終えて顔を出すと、ちょうど奴も上段から顔を出したところだった。乱れた前髪から赤くなった額が覗いている。

「何時?」
「あと…15分」
「5分寝」
「起きろって。同室の俺まで注意されんだろ」
「ユーゴ様、おねがい」
「駄目」
「あぅ……」

奴は眉間を押さえて、渋々と言ったかんじで上段へと引っ込んだ。俺もまた引っ込んで、ズボンを履き替えるとベッドを降りて軍靴に足を突っ込んだ。ベッドの縁に引っ掻けておいた軍帽を持ち上げて、「先行くぞ」と声を掛ける。すると慌ただしい上段から、指が一本差し出されてすぐ引っ込んだ。
――一分待って。
よし来た。俺は目覚まし時計を手に取った。秒針はせかせかと回り――一分。乱れ髪の長身がひらりと上段から飛び降りた。俺から目覚まし時計を受け取って、スメラギアカルがにやりと笑う。

「一分」
「起こされた身で偉そうなこと言うな」
「褒めろよ」
「偉いね」
「よし来た。いくべ」
「待ってたんだよ」
「一分ぐらいいいだろ」
「朝っぱらから良く口の回る…」
「お互い様」
「はいよ」

再びアカルから受け取ったそれを、ベッドに戻した。自分じゃ起きれないだろうと、餞別がわりとクロエがくれたそれにも、もうずいぶん見慣れた。


クロエが大隊長になってしばらく。利便性のためにクロエは司令官の側の部屋に移動した。そして何の巡り合わせか、クロエが引っ越したその部屋に一人で居を構えていたのがこの、目の前にいる男である訳である。
その部屋のベッドも二段ベッドだったらしいが、これまではずっと下段で眠っていたらしい。上段にはまだ慣れないらしく、越してきてからと言うもの、アカルは天井に頭をぶつけてばかりいる。
アカルは俺と同じくらい、それか俺以上に朝が弱い。これまでは俺が起こしていてもらったのに、と思いながらアカルを毎朝起こしてやるのは、どこか愉快でもあった。

「アカル、帽子」
「とって」
「はいはい」
「どうも」

アカルと連れ立って部屋を出て、食堂までをぶらぶら歩く。昨日見た夢だとか今日の朝食のことだとか他愛ない話に花を咲かせながら、俺たちはそこそこうまくやっている。
しかし、それから何日も経った今になっても、俺はあの日――クロエが大隊長になった日――アカルが声を挙げた理由を訊けてはいないのだった。