「司令官とマキナがねえ…」

飛び込んできたゴシップを、自分のうちに呑み込んでおけるほど俺は人間ができておらず。

「いやまあ、確証はないんだけどさあ…」
「自信の程は?」
「半分くらいかな…」
「まあ、証拠が匂いだけじゃな」

クロエがそう言うのももっともだった。確かにちょっと強引すぎた、何かの偶然かもしれない――マキナとエズラが『そう』言う関係だと結論付けるには。

今朝の出来事があって、今は夜。日中ずっとそわそわして過ごして、一日が済んで。
俺はたまたま訪ねてきたクロエに、訪ねてきた用件を訊くよりも早く今朝の出来事をぶちまけていた。アカルは何の用だか知らないがまだ帰ってきていない。

俺と同じく床に座っているクロエは、「もし本当にそうだったとしたら」と口を開く。

「やっぱ前からなのかな。俺凄い邪魔じゃない?俺今大隊長なんだけど」
「前から…!あー…」

前からだったとしたら。確かにクロエのポジションは凄く迷惑なのかも知れないが。
そんなことより……俺は二度ほどやらかしてるんだけど。戦場と、シャワールーム。
俺は顔を覆った。

「そら慣れてるよな…」あまりにやらかしすぎていて、どこから後悔していいかわからない。
「え、何?」
「何でも……いや、でもあいつ童貞だって言ってたぜ?」
「は?」
「いやあいつ、童貞じゃないんだけど、童貞だったんだよこの前まで」
「はあ?じゃあ、…童貞だけど処女じゃなかったんじゃない?」
「あー…!そう言う…ああ…」確かにその方がリアルではあるが。
「ああ…」良く知っている二人なだけに、あまり深く考えると罪悪感が酷い。これは謝った方がいいのか?いやそれも変か?

「じゃねえよ」
「え?」

突然腕を掴まれて、俺は顔を覆う手を外した。
見るとクロエは苛立った顔をしていて、見ている間にぐっと顔を寄せてきて――…しまった!失言にもほどがあった!

「ごめんなさい」
「あ?」

いや、何で謝ってるんだ俺は。俺とクロエは一応、何にもないんだぞ?
とりあえず溜飲を下げさせようと思ったのが更に悪手だった。変に誤魔化して、それが失敗するよりはましだったかもしれないが。

「ヤったの?」
「えっと…」
「いつ?」
「この前…」
「何で?」
「あー…」

何で、と言われても。つい、としか言えないのがあまりにも申し訳なかった。
クロエの、腕を掴むのとは逆の手が顎を掴む。

あ、これは、と思ったらやっぱりキスされた。
キスはこれまでとは違った荒々しさで、呼吸も全然させてもらえず俺はクロエを押しやろうとするが効果はない。苦しいのか気持ちいいのかよくわからないまま、頭がぽーっとし始める。

暫く経ってやっと唇が離され、俺は空気に噎せ返りながら多分腑抜けた顔をしていただろうが。クロエはまだ苛立った表情を浮かべていて、…正直、ぞくぞくした。

「……お前が初めてだったのは、嘘じゃないから」
「へえ?どうだか」
「ホントだって…んッ」

再び重なった唇はやはり嫉妬に駆られて荒々しく。この分じゃ信用されてないだろうな…
嬉しいのと不安なのとが、混じりあってよくわからない感情になっている。全く別の感情の筈なのに。

「ごめんクロエ。どうしたら許してくれる?」

なあ、と見上げると、クロエは眉をひそめ。
それから急に良く見かける苦笑を浮かべた。俺はほっとする。さっきまでの不安が嘘のようで、俺は何がそんなに怖かったんだろう?

クロエは掴んでいた俺の手を引くと、自分の中心へと導いた。既に心臓は五月蝿いくらい高鳴ってる。耳に舌を捩じ込まれて、ぐちゅっという水音と共にぬるい液体が首筋を伝ってすぐに冷える。
「触って」と言われる前には、もう自分から手を触れていた。

「んッ…クロエ、駄目だって…集中出来ないから」
「何とかして」
「もうこの…!」

クロエは俺に自分の中心を触らせながら、俺の耳を執拗にねぶっていた。俺を導いた手も既に離れ、服の上から乳首を玩んでいる。もうツンと固くなっているだろうことが自分でわかった。
まだ触られてもないのに、俺の方も酷く興奮していた。

「…正直」
「何?」

クロエは耳元で熱い息で笑う。

「お前がマキナに言い様にされてるの、想像して興奮した」
「……はあ?」
「そう言う属性あるかも」
「アホか」
「でもさ、もうしないで」
「…うん」
「ホントに?」
「しないよ」

クロエは「そっか」と笑うと、それから、「ありがとう」と俺の頭を撫でてくれた。クロエに頭を撫でられながら、俺は許された方の癖に納得が行かなかった。
…浮気、じゃないけどそう言う関係じゃないから。でも、浮気みたいな、してもいいみたいな。
「しないで」って言われたけど。妬いたんじゃねえのかよこの…俺の気が済まないんだよ!

「ユーゴ…!?え、ちょっ、嘘…ッう、あ」
「…うわ。ホントに不味」
「喋んな…ッ!」

俺はクロエの手を振りほどくと、先程まで手で弄っていたクロエの中心に顔を埋めていた。
恐る恐る先端をちろちろ舐めると、クロエは良い反応をくれる。

「何考えてんの、何考えてんの!?」
「あー…やっぱ男にされるのはアレ?」

俺は正直、やっておきながらその味と触感に腰が引けていた。20数年真っ当に生きてきて、勿論こんなことしたのは初めてだ。上手くできるわけもないし。
「調子に乗った」と呟いて俺は身を起こし―――しかしいつもの紳士さはどこへやら。焦ったような表情のクロエに、無理矢理頭を押さえ付けられていた。

「…嫌じゃないから、やって?」

酷くやらしい声色だった。押さえ付けられた頭は痛いが、そんな声で言われて誰が断れるんだよ?
俺は再び先端をちろりと舐めると、思い切って口に含んでみる。ちゅう、と吸うと、クロエはびくりと身を揺らした。
段々楽しくなってきて、俺はアイスを舐める要領でクロエのそれをねぶってみる。見下ろしてくるクロエと目が合うと、気まずげに目を逸らされた。…このやろう。
本当なら最後までやってやりたいところだったが、俺の方がもう限界だった。触っても触られてもないそこが、熱くて、もう痛いくらいになっている。
俺はクロエのそれをきつく吸い上げて注意を促すと、視線を絡めて懇願する。

「クロエ、これ…」
「え」
「まだ怒ってる?」
「いや、別に…」
「挿れて」
「は?」

しどろもどろのクロエに、段々痺れを切らしてくる。ついこの前もこんなことあったな?
…さっきまで良い感じだったのに。俺もなんかそんな属性があるのかもしれない。
クロエの奴はホント時々ヘタレすぎて、何か言ってやろうと口を開いた矢先――


「ただい………うわっ」

…すっかり忘れていた。
クロエと同室であることに慣れすぎていた。だってクロエと同室になってから、もう何年も経っているんだ。
クロエと出会って、暫くした後俺の同室者が変死して、何の因果か新しく同室になった。
それからついこの前までずっと同室だったわけで。錯覚を起こしてもしょうがないと…

思うんですけど。

「そうだろうなとは思ってたけど…うわあ」

帰ってきたアカルに、空気を読むことを求めるのも間違っているだろう。
クロエはさっきまでしどろもどろだったくせに今は平気な顔をしている。それどころか不機嫌そうにも見えた。俺はと言えば、まだ茫然とクロエとアカルを見比べることしかできないのに。
アカルは居心地悪そうに頭を掻くと、クロエへと視線を向けた。

「…やっぱ部屋戻さねえ?ちょっと色々どうしていいか、これから」
「いいけど。すぐに戻すと不自然だからそのうちな」
「おう。早めによろしく」

アカルは最後にちらっと俺を見ると、取って付けた笑みを浮かべて背中を向けた。
「お邪魔しました」じゃ、ねえよ。

…いやいや。いやいやいやいや。

「――ちょっ。ちが、違う!!!!アカル!!!!!」

慌ててクロエを押しのけて部屋を飛び出したが、アカルはもう影も形もなかった。
「な…」
速い。さすがは影の筆頭。おい。こう別れて、次会う時どんな顔してたらいいのかわかんねえよ!

「ああーー…!!」
やったった。やらかした。傷心のまま振り返れば、既に衣服を正したクロエがじっと見つめて来ていた。
険悪な視線に気圧されて一歩後ずされば、クロエは溜息を吐いて俺の横を擦り抜けた。

「え」
「萎え、た」
「ええー」
「……尻軽」
「ちょ、ちょっと…」

アカルとはそんなんじゃないって!!ていうかこういうのって普通逆じゃない!?
と言おうにもクロエはもう手の届くところにはおらず。

「ああ…」

誰にも彼にも、次会う時にどんな顔をしたらいいんだか!