俺たちに取って『マキナ』は侮蔑ではない。むしろ誉め言葉だ、それも最上級の。
マキナが最高の凶器として讃えられる理由はその強さだけではなかった。もう一つの理由はその生まれだ。
マキナは第一世代の唯一の生き残りなのだ。国安法の施行により徴発された最初の乳幼児の。
それからマキナはずっと凶器として生きてきた。第一世代の訓練は、今よりもずっと厳しかったと言う。政府の方も手探りだから、今から考えると馬鹿みたいな訓練もさせられたらしい。
例えば、いかなる拷問にも耐えられるよう、拷問を施されるとか……キ〇ガイ政府が。
それでもマキナは生き残り、そして今、『デウスマキナ』として大隊に君臨している。
エズラから忠告を受けて数日後、転機は突然に訪れた。敵軍が突然進駐を始めたのを、見張りの兵士が見付けたのだ。そしてその数時間後には、#4も軍備を整え迎撃のため出撃した。勿論全軍ではなく、数十名の精鋭がマキナに率いられて、だ。エズラは駐屯地に待機。マキナの率いる隊には、俺とクロエも含まれていた。
泥と血で体を汚して、俺は浅い森に這いつくばって身を潜めていた。
戦地の至るところから聞こえる悲鳴と、銃声と、絶叫が、絡み合って交響曲を奏でている。血と硝煙と土と糞尿の混じり合う戦地の匂いは、どんな美女の香水よりもそそる――俺はこの異常な状況で勃起していた。
…でも俺はそれを異常だとは思わない。戦場では一般人こそがキ〇ガイで、一人でも多く殺し、一人でも多く犯す殺人鬼こそが勇者なのだから――……
俺は草むらに身を潜めながら、眼前で繰り広げられる地獄を暫く眺めていた。
目の前では丁度、我らが大隊長が大立回りを演じているところだった。人数的には、マキナが明らかに分が悪く、敵兵の銃弾が何度も危ういところを掠めた。状況だけを見たなら、俺が手助けをして然るべきなんだろうけど――俺だって、命は惜しい。巻き込まれるのはごめんだ。
銃弾が薄く頬を裂いても、マキナは眉一つひそめなかった。それどころか銃撃の合間を縫って的確に、敵の眉間を・心臓を・引き金を引く指を・膝を撃ち抜いてすら見せる。あとは一瞬の動揺があれば十分。跡が残るほど強く地面を蹴って、マキナは集団に斬り込んだ。小枝を伐採するように銃を握ったままの手を切り落とす。殺陣と言うのも烏滸がましいほど、マキナの力は圧倒的だった。そして数瞬後にはもう、マキナしか立っていない。マキナは人形のように棒立ちで、嫌に綺麗な死体たちを眺めた。何の感慨もない、ただ生死を確認するためだけの動作を終えると、マキナは身を翻した。その間、息一つ切らすことなく。辱しめるでも貶めるでもなく、ただ機械が作業をこなすように単調に――……『マキナ』は伊達じゃないってか。誰にともなく呟いて、俺は持ち場へ戻った。
俺は息と足音を殺し敵兵に近付くと、その後頭部に銃を押し当てて
『BANG!BANG!BANG!』
三発撃った。一瞬時間が止まったように制止したそれを、自分の反対側へそっと押してやる。どうっと音を立てて地面に倒れたそれをじっと観察した。
灰色の脳味噌が血と土にまみれて、頭蓋骨もぐちゃぐちゃに割れてしまったが、体は全く無傷であることに満足感を覚えた。戯れに頭蓋骨を踏みつけて、その軍靴ごしに頭蓋骨の砕ける感覚を味わう。どこか霜柱を思い出した。
「よっ、と……」
俺は死体の襟首を掴むと、それをもといた森へ引きずり込んだ。そしてそれまでに殺した死体の隣にそれを並べ、俺はその側に腰を下ろした。
俺は人を痛め付ける趣味はないから、殺すときは頭か心臓を狙う。頭蓋骨の滅茶苦茶になった死体と胸をぶち抜かれた死体を眺めて、俺は頭を掻いた。
「一発くらい抜いてる時間あるか…」
いや、でももし、抜いてる時に敵に見つかってチャック全開でチンコ出したまま応戦するのはアレだよなやっぱ…伝説になってしまう。
「うーん……」
もしここにクロエが居たら、『アホか。』の一言で終わらせてくれるのだろうけど、クロエとは交戦中にはぐれてしまった。つまりストッパーがないのだ。
まあここで抜かなかったとして、テント張ったまま交戦ってのもあれだよなあと言い訳して、俺はズボンのジッパーを下ろした。
「…若いなあ、俺」
ユーゴは手袋も外してポケットに捩じ込むと、下穿きから自分のペニスを取り出した。触る前から、それはもう芯を持って固くなっている。
「ん…」
ペニスは指先よりずっと熱かった。片手で玉を揉みしだきながら、もう片手で棹を擦る。手の動きが段々速く激しくなるのは、速く終わらせたいのと興奮と両方だろうと思った。酷く血に酔っている自分に気付いていた。
「……ユゥ、…ゴ?」
あまりに自慰に夢中になっていたせいで、俺はいつの間にか現れた人影に全く気づけなかった。それは多分そいつが、完璧に気配を消していたせいでもあるだろうけど……ユーゴは赤みの差した顔で、そいつを見上げた。手はペニスから離さない。
「マキナ」
「…………」
マキナはあまりに驚いていたらしく、呼び捨てを咎めなかった。俺は酔った頭でマキナを眺める。マキナは俺よりももっと、血にまみれていた。ユーゴが4、5人片付ける間に、マキナは一体何十人殺したんだろう?ユーゴはほとんど何も考えずに、マキナを手招きした。
「来いよ、マキナ」
「ユーゴ……」
「来い」
いつも無表情のマキナの戸惑った表情が面白くて、俺は薄く笑った。マキナの浴びた血の匂いが嗅ぎたかった。もう一度手招きすると、マキナは躊躇いがちに近付いてきた。マキナを向かい合うように座らせて、俺はマキナの肩口に頭を埋めた。機械油の匂いはしなかった。人間の汗と血の匂いがした。
「付き合ってけよ、マキナ」
「……は?」
「いいから……」
俺はマキナの肩口に頭を埋めたまま、手探りでマキナのベルトを外した。
「なに……!?」
「嫌なら逃げろよ。言っとくが俺は男は守備範囲外だから、安心しろ」
「は?」
「自慰に付き合えっつってんだよ」
言ってる間に俺はマキナのズボンのジッパーも引きずり下ろして、下穿きからマキナのペニスを取り出した。
「……俺よりでかいじゃん。さすが大隊長」
俺は口笛を吹くと、自分のペニスとマキナのペニスをくっ付けた。マキナが息を詰めるのに、サディスティックな快感を覚えた。
「大隊長も、オナニーとかするワケ?」
「俺は、そんな……っ」
「しねえの?まさか、童貞?」
「…………」
「まじでか。かわいーな」
「な………」
「教えてやるよ、どうやんのか」
「は?」
「ほら……」
俺はマキナの手を掴むと、ペニスを二本纏めて握らせた。マキナの手袋の冷たさにぞくぞくしながら、俺はその上に自分の手を重ねた。そしてマキナの手ごと、二本のペニスを擦り上げる。
「…あ、…っ……く、マキナあ……!」
「ッ……」
マキナは唇を噛み締めて、快楽に喘ぐのを堪えていた。それにまたサディスティックな快感が込み上げて、俺はマキナの唇に噛み付いた。――……酔いすぎだ、馬鹿。そう思いながらも俺は自分を止められなかった。驚愕に緩んだマキナの口内に舌を差し入れて、したいがままに犯した。その間もペニスを擦り上げる手は止めない。
「マキナ、…気持ち、いいか……?」
俺はそうだろうと判っていて訊いた。同じ男なんだからそれくらいわかる。マキナのはち切れそうになっているペニスを指で撫でると、大袈裟なくらいマキナは震えた。
「もう…やめてくれ……」
普段のマキナからは考えられない、縋るような声色だった。
「頭がおかしくなりそうだ」
「なれよ」
「…………」
にべもない言葉に、マキナが言葉を失った。俺はマキナを覗き込んで意地悪く笑ってやる。
「イきたいだろ」
「え……」
「出したくないか?夢精くらいしたことあるだろ。そういうことだ」
「…………」
唖然としたマキナを笑って、俺は自慰を再開した。先走りでてらてらと光る二本の肉茎は、酷くグロテスクで卑猥だった。
「――ユーゴ…や……っ!」
「…イきそうか?俺もそろそろ……」
再びマキナの唇に噛み付いて、俺はラストスパートを掛けた。血の匂いと精の匂いにくらくらする。マキナの瞳に一瞬怯えが走るのを見て、それで俺は射精した。それとほぼ同時にマキナも射精して、俺とマキナの手のひらに、お互いの精液がぶちまけられた。
「あー……」
出すものを出してしまうと、…酔いは一気に冷めた。そしてやっとのことで、この状況の異常さに気付く。……これは多分、一種のレイプだ。
萎えたペニスから手を離し、マキナの手も離してやると、自分の精液で汚れた手を敵兵の軍服で拭った。そしてマキナの手袋をぽいぽいと投げ捨てて、マキナのペニスを仕舞ってやる。それで自分のペニスも仕舞えば、これで全部なかったことに――……ならないですか?なりませんか?