昼間からの長ったらしい会議が終われば、いつの間にか日も沈み掛けていた。今は皆去って二人、何を話すでもなく机に凭れている――何か、話したいこともあるような気がしたが。とうに舐め終えた飴の甘ったるさが、まだ口の中に残っている。意味のない嚥下の音、それはやけに響いた。ふと絡んだ視線を、気まずくも嬉しくも思った。
「ジャン、さん――」
言葉はそこで途切れた。俺も、おう。と返すだけで巧く言葉を繋げられない。もどかしい。べたべたする口内のせいだと思いたかった。唾を吐き掛けてここがどこだか思い出してやめる。
「――なあ、ジュリオ」
「はい」
「…夕日、キレーだな」
「はい」
「……ごめん今のナシ。ハハ……何話していいか、わかんねえワ」
「はい、俺も……」
――話したいことは色々あったように思うのに。
「ジャンさん、あの…」
「ア?」
「手を――良いですか」
こう?差し出した手を、ジュリオはぎゅっと握った。
「――次、いつ会えるかわかりませんから…せめて」
「ああ…そうだな。この後時間さえあれば、シケこめたって言うのに。ヤダねボスって…冗談、冗談だよ」
「はい」
「ジュリオ」
「はい」
「俺さあ」
「はい」
「……時々、ボスなんかやめちまいたいと思うよ」
「……」
「お前と、どっか逃げちまいてえ。一日お前のことだけ考えて、お前のことだけ見て、キスして、触って…」
「……」
「ごめん今のナシ」
「ッ――……」
俺の手を握るジュリオの手が、ぴくりと反応したのが判った。…酷いこと、言っちまったな。
「俺も……貴方を、拐いたい。ボスなんか止めろって、言い、た、い……ごめんなさい」
「いいよ、俺が悪かった。変なこと言ってごめん」
「変じゃ、ないです」
「うん…そう、なれたらなァ。まあでもよ、ここにいるから、お前と会えた。そうだろ?だから俺はこれからも――頑張れる。お前のボスで居られるんだ。わかるだろ?」
「はい――ボス。俺の…」
ジュリオは薄く笑みを浮かべた。俺も笑い返しながらその指を、ぎゅっと、握った。