…手首を絞める皮のベルトが、身動ぎする度ギシギシと音を立てる。

「…………」

俺はもうしょうがないので、諦めたので。逃げようもないので。

「間桐雁夜」
「食ったよ、ほら」

俺は無法者――言峰綺礼に、んべ、と舌をつき出して見せた。するとココアパウダーにまみれた指が、躊躇いなく俺の舌を掴む。じわじわとココアと言峰の指の味がして、――ああもう何度目だよ。食傷気味。もう良いっての。
検分する言峰にはああ、と聞こえるように溜め息を吐いた。嫌みが通じないのは、神父だから?人間を疑えよ!

唾液に濡れた指が離れたと思えば、また差し出される黒色の固形物。もうええっちゅうねん。
粘膜そのものまで甘くなりそうに、致死量のチョコレート。椅子にくくりつけられた手足が痺れて軋んでいる。
俺はチョコレートをまたひとつぶ、含んだ。



チョコレートはひとつひとつと姿を消していく。



ひとつひとつがひとはこになって。



唾液まで甘い。



バレンタインを履き違えている。

「言峰。飽きた」

味にも。態勢にも。
ちょいちょい、と手招きすれば言峰は無防備に屈んだ。さらにちょいちょい、と手招きすれば鼻先も触れる距離。

「何だ」
「飽きたよ」
「そうか」
「何がしたいんだ?」
「……」
「バレンタイン欲しいか?」
「……」
「舌出せ」



口内の甘さ全部押し付けてやるつもりで。



言峰の舌で自分の其れを拭う。



噛みきられた唇は、別に甘くはない。



血液がチョコレートなのは夢見る子供だけ。


「はー」

キスに夢中になっているうちに、いつの間にか。
言峰が俺のシャツの中に手を入れていた。シャツの膨らみで、左脇腹を撫でられているのがわかるが。
そっちは何も感じないっていう。嫌みか。まず、この椅子にくくりつけられた体勢では、何もできないだろうって。お前が乗るのか。お前では勃たん。


「とりあえず、ほどいてくれない?」
「……」

せめて沈黙が雄弁なら。

「はあ」

俺はチョコレートくさい溜息を吐いた。