目覚まし時計が一回目のコールを終える間には、俺はもうはっきり覚醒していた。

「…一時ジャスト」

そう午前一時。ここのところ数ヶ月、続けている習慣の通りだった。「ふあ…」習慣が吐いていたって、眠いものは勿論眠い。俺はごそごそとベッドからも這い出して電気を付けた。闇に慣れた目を蛍光灯が焼いて、脳まで貫くようでくらくらする。…駄目だ、これじゃ。また流されてしまう。
こきこきと首を鳴らして、壁掛け時計を見上げればまだそれは一時を少し過ぎたところだった。――奴が扉を叩くのは、大体一時半頃。まだ時間は少しあるようだと思えば――…考えるのはいつもと同じこと。

「……どうしてこうなった…」

ここ何ヵ月も考えていること。…ここ何ヵ月も答えの出ていないこと。

ホントにどうしてこうなったんだろう。一体どこで間違ったんだろう?
この高校に入学したことなのか。うっかり目立ってしまったせいか?それともこの才能のためか…きっとどれのせいでもない。
どれもがこれの原因だ。



この高校には、所謂一芸入試と言うもので入った。私立山入波学園は中々に有名な男子校である。有名なのは有名大学への進学率の高さのせいでもあるが、きちがいじみた授業料の高さのせいでもあった。ちなみに俺の家は、しがない書道教室をやっている程度。勿論そんな授業料を払えるわけがないのだが――…
転機が訪れたのは中三の冬だった。近所のそこそこの高校を受けようとそこそこの勉強をしていた俺のやる気を打ち砕いた一通の手紙。

『その才能を見て、我が校に来るなら授業料の一切を免除しましょう』

って。あの山入波が。受けない馬鹿は多分この世にいないだろう。そしてその翌年の春に、親元を離れて俺はこの学園にやってきた。

もう何となく察しがついているんだろうが。
俺のたった一つの才能と言うのは書道である。照れ臭いし馬鹿っぽいからどれぐらいとは言わないけど、まあ山入波に呼ばれるぐらいだと思っていてほしい。
学園に入学してからも、何度かはコンテストに出場したり入選したりたまには最優秀賞を貰ったり佳作に入ったりしていたが。生徒会からお呼びが掛かったのは今年の――つまり二年の春だった。
全寮制で、しかも生徒での学園運営を推奨する山入波は、他の高校よりも生徒会が圧倒的な力を持っている。生徒会選への生徒の投票率は90%を越えるとか。
俺を呼んだのは我らが生徒会長で、一応俺の書道一芸の話は学園に響いている。俺が呼ばれたのは、書記と言う役職だった。特に生徒からの反対もなくその職についた俺は、この一人部屋を与えられたりと何かと特権を与えられ、柄にもなく舞い上がったりしていたが。

「断っときゃ良かったなあ…」

権力に拘るタイプでもないはずなのに。絶大な権限を持つ山入波生徒会に憧れを抱いていたせいか。それとも会長の熱烈な勧誘のせいか…俺は頭に浮かんだ会長の顔を、頭を振って思考の外に追いやった。どうせすぐに見る顔だ。俺はもう一度壁掛け時計を眺め――一時25分。そろそろかと腰を上げたのを見計らったように、外側から鍵が回った。「…職権乱用め」俺は舌打ちする。訴えたら勝てるんじゃないか?…無理か。権力と言うものは忌々しい。


扉が開けば―――薄暗い廊下を背負って、見慣れた顔がそこにあった。部屋に仁王立ちする俺を見て、奴は飽くまで楽しそうに笑う。
『天は二物を与えず』な俺を嘲笑うが如く、天に贔屓されまくった男。頭脳・容姿・家柄・カリスマ性・それだけ揃っていて、嫌味にならないというチート力。奴は靴を乱暴に脱ぎ捨てると、ずかずかと部屋に乗り込んできた。耳にかかる金髪とピアス。奴は趣味で不良をやっている……生徒会長の癖にな!
生徒会長兼不良兼、理事長の一人息子である山入波昭は不敵に笑う。


「来てやったぜ、書記」
「呼んでねえ帰れ」
「わざわざ起きて待ってたんだろ?」
「寝てたら何されるかわかんねえだろうが犯罪者」
「尤もだ」
「黙れ」
「俺にそんな口を聞いて良いと思うのかよ」
「生徒会長様お帰りください」
「無理」
「てめえ…」

俺は俺と相対するように立った山入波をできる限り険しく睨み付ける。山入波は俺より1センチだけ背が低い。本の少しだから、何か変わるわけではないけど、気持ちの問題。書道と身長だけは俺が勝っている。
俺のそんな幼い思考を察したのか何なのか、山入波はにやりと唇を歪めた。

「書記」
「…………」
「わかってんだろ?」
「何が」
「白々しい…おら」
「どこ触ってんすか」
「ベルト」
「きーてねぇよ」
「わかってんなら自分でやれや」
「…………」

…山入波は、俺のベルトから手を離した。かと思うと、俺の足元に膝立ちになる。頭は丁度、俺の股間のあたり――「書記」不機嫌な声色。…なんで、こんな関係をやってるんだろうか。男子校って、こう言うこともあるらしいって聞いたことはあったけど。何で俺なんだよ……俺は、自分のベルトに指を掛けた。



「……ッん、ふ、は……苦」
「じゃあ、止めたらいいじゃないすか」
「止めていいのかよ」
「…………」
「思ってもないことを言うなっての」

山入波はやれやれとばかりに息を吐いた――俺のそれを咥えたまま。「ッ、んの…」ぞくぞくと痺れが首筋を這い上がる。

「…毎回思うけどさあ、お前もうちょっとちゃんと洗えば?俺が洗ってやろうか?」
「死ねよ」
「部下を心配して言ってやってんだよ」
「余計なお世話」
「あ、そ……ほらもっと…ッこことか…」
「――ッ、ぅ…」

火傷しそうに熱い舌が、ぞろりと皮と亀頭の間に入り込む。

「ちゃんと剥いて洗ってんの?適当?」
「関、係ねえだろ…ッ!」
「相変わらず先っぽ弱えなあ」
「うる――ッ、」

声を張り上げ掛けた俺を山入波は笑うと、今度は亀頭の割れ目に下を捩じ込むようにして愛撫してくる。…正直めっぽう弱い。そうしながらも、手は棹を扱いたり玉を揉み込んだりしてくるんだからたまらない。先程よりもずっと溢れている先走りを、山入波が美味そうに嚥下しているのが気持ち悪い。

「苦いんじゃないのかよ」
「苦いのと好きとは別の問題だろ?」
「きっしょくわりぃ…」

なんで罵倒に屈するような山入波でもなく。こいつはもしかしてMなんじゃないか?と良く思う。普段は威張り散らしてるくせして…「――気持ち悪いんだよ、ド変態」「月並みな台詞だな」「ざけんな」「もっと思った通りに言ってみれば?」「言ってるわ」「こっちはこんなに素直なのにねえ…」なんて話している間にも、山入波は俺のそれに口を近付けたまま。指先も絡んだまま離れないってもんだ。息を荒げない密かな努力には絶対に勘づかれたくなかった。でも山入波が、見透かすような目で笑うもんだから、むかつく。
「死ねよ、キモい」
山入波昭は屈しない。吐き捨てた俺へ、山入波は上気した顔で笑いかけてくる。――訂正。もしかしなくてもドM。生徒会長が、俺なんかのちんこしゃぶって興奮してるような奴だなんて。知ったらこいつのファンが何て思うか――……それどころか。

「書記ぃ」
「…何すか」
「わかンだろ?おい」
「さあ」
「馬鹿お前…」
「気持ち悪い声出さないで貰えますかね」
「お前ほんとわかってんの?俺が誰だかわかってんの?」
「金持ちは都合が悪くなると権力をひけらかすから大嫌いですね」
「…何だよ、意地悪言うなよこのド庶民のくせして」
「気持ち悪いんだよ死ね」
「ギブアンドテイクだろーが!」
「求めてねえよ帰れ」
「お前な……!!ッとにもう…頼むって…」

…山入波は俺を見上げて、膝と膝を擦り合わせた。必然的に上目遣いで、あと諸々で涙目なのが、何それすっごく気持ち悪い。お前の顔と身長でやっていいことじゃねえ。俺は奴の膝の間のそれがどういう状態なのかも見てしまって、尚更気持ち悪くなるのである。縋るような視線を向ける山入波を無視して見上げた壁掛け時計はそろそろ2時になりそうだった。……早く帰ってくれねえかな。

「しょうがないですね…」

山入波はぱっと嬉しそうな顔をしたが、そっちじゃねえよ気持ち悪い。…靴下履いときゃよかったなマジで。
「イったら帰れよ」俺は山入波の頭を押しやると――相手が生徒会長で、世間的な権力をも持つ金持ちだと言うことだけは配慮して――山入波のそれを踏みつけた。不能になっても人のため。

「い―――ァ!?ぅ、馬鹿!!そっちじゃねえよ!?」
「どっちでもいいじゃないですか…」
「良かな、ッあ、痛あ…」

足先でぐりぐりと踏みにじってやれば、山入波は痛そうに身を固くする。辛そうに顔を歪めても、半勃ちだったそれが硬度を増していくのを足の裏が感じた。青竹踏みたい。「痛くないんすか」「痛てえわボケ!!」「じゃあやめましょうか」「この野郎…」
足の裏の下、奴の穿いてるズボンの下。粘液で張り付いた布がにちにちと音を立てている。ズボンにはもう隠せない染みができてしまっていて、これで自室まで帰るのかと思ったらちょっと哀れだった。まあ、どうでもいいけどさ。

「あれ、もうイきそうなんですか早漏」
「…ッまえ、口の聞き方解らせてやろうか…」
「結構です」
「殺すぞ」
「不良は都合が悪くなると暴力を持ち出すから大嫌いですね」
「いーかげんに…ッあ、ひ――うぁ、痛い、痛いから…っ!!やめ…」

下の方が素直なのはどっちなんだか。顔も声も痛がっているくせに、奴の下のそれだけは元気に俺の足の裏に反発している。僅かに濡れた足の裏が気持ち悪い。生徒会長に弄られて勃てられた、自分のそれも萎えそうな気分。だから、一度は押しやった山入波の頭を掴んだ。山入波がしかめた眉のまま目を見開く。「咥えろ」「……え」やれって言ったのは俺なのに、いいの?とばかりに目を泳がせたのが不愉快だった。ぎりりと踏みにじってやって初めて、山入波は慌ててそれを咥えた。

「…もっと奥まで咥えられねえんすか」
「無理だって…!」
「――まだ喋れるじゃないすか」

俺は山入波の後頭部を掴むと、俺のそれを無理矢理に奥まで捩じ込んだ。山入波の喉に突き当たった亀頭がその柔らかさを感じる。山入波は苦しそうな顔で噎せかけ、しかし刺激を与えたそれのせいで逆に噎せられないでもがいていた。
…喉奥の震えが僅かな刺激になって首筋を走った。確かに山入波は上手いけど、こうなるとそう言うのも関係なくなる。つまり、オナニーに相手は要らないじゃないか、それはセックス。

「やれば、できるじゃないですか…ッはあ、流石」
「うぅッぐ――ふあッ。…む、ふッ……」
「――会長、折角綺麗な顔に生んでもらったのが台無しですよ。ほら、いつもみたいに笑いなさいよ」
「だァ、れ、のォ゛…――!」
「――笑えっつってんすよ。黙れ」

山入波の頭を掴んで、何度もその喉奥に切っ先を叩き込んだ。山入波はえずき、きつく眉を寄せながらも、歯を当てないように努力しているようなのがいじましく――なんかむかつく。感情に任せて足に体重を落とすと山入波は呻いたが、萎えない。それどころか始めた頃よりも相当に質量を増していた。それがびくびくと震えているのが足の裏に伝わって、イきそうなのかと察した。まあ、かく言う俺もそろそろと言ったところで、自分のそれが射精前の緊張感を持っているのがわかる。

「…人のちんこしゃぶって、ちんこ踏みにじられて、こんなに邪険にされて、イっちゃうんですか?え?…気持ち悪い。――出してやるから飲めよ。一滴も溢さないで下さいね、掃除めんどくさいんで」

…俺の言葉のせいなのか、亀頭の突き当たっている喉奥がびくりと震えた。頭を固定して激しく律動を再開すれば、口内の柔らかい粘膜が俺のそれをじっとりと包み込んでいる。時々陰毛が山入波の鼻先に埋まってふわふわした。

「ッあ、く…そ。気持ちいいな――出すから。お前もイけば…?」

俺は足の裏で乱暴に山入波のそれを擦って、亀頭を爪先で引っ掻いてやる。ごりごりと何度も扱いてやると山入波は痛みと気持ちよさの交じった声で呻いた。足の裏が山入波の先走りでぬるぬるする。

「昭、――ッとにお前、気持ち悪いよ……最ッ高……あ、出る…ぅッぁあ!」

山入波の鼻先が俺の陰毛に埋まるように押さえ付けて、俺はその喉奥に精を吐き出した。少し遅れて足の裏に衝撃があって、山入波もイったのかと察する。
口内からずるりと俺のそれを抜くと、山入波はやっと体を折って噎せた。噎せるごとに床に白いものが飛び散って、――おい飲めっつっただろうが。掃除すんの誰だと思ってんだよ――じゃなくて。
…流石にやりすぎただろうかと俺は思う。

「おい山入波…じゃない、会長」
「…………」
「あー…何つーか……」

俺は山入波に、掛けるべき言葉を探して、探して――…て言うか。
何で俺があやまらなならんのよ。と気付くのである。俺何も悪いことしてねーやん。危ない危ない…
俺はティッシュの箱をけんけんの要領で取りに行くと(床を汚したくない)、座り込んで足の裏をティッシュで拭いた。拭き終えてゴミ箱を目で探していると、口を押さえた山入波と視線が絡んだ。床拭いて帰れよ…じゃなくて。もういいわ。

「帰れ」
「……は?」
「もう二時回ってるんで。帰れ」
「はあ?」
「帰ってください」
「…………」

何て言うかもう、寝たいわ。俺は丸めたティッシュを一旦床に置いて、新しく出したティッシュで俺のそれを拭いた。精液と山入波の唾液でどろどろになっている。

「明日は土曜日すけど、もう眠いんで。つかそもそも、会長は何が楽しくて毎週金曜日…テレビか、おい。まあいいや――とりあえず、帰れ。帰ってクソして寝ろ」
「…………」


俺の言葉が届いたんだろう、山入波はスッと立ち上がった。これに懲りて二度と来てくれないと良いのに。
山入波は爆発寸前――な感じに貼り詰めた顔をしている。そんな山入波に見下ろされた俺はオナニー中みたいなみっともない格好。ついでに書記の座も降ろしてくれれば楽なんだけど。あー、でも変な噂流されるのだけはちょっと…

「書記」
「はい」
「お前な」
「はい――」

――次の瞬間、の――次の瞬間。俺は余計な『長さ』の言葉を発していなかった自分を褒め称えるのである。

「ぐっ――!?ぇ、あ…う」
「調子乗んなよ、お前…」

それはそれは綺麗に決まった。
『はい』よりも『長く』言葉を続けていれば、舌を噛み千切ってたかも知れない。
山入波にそれはそれは綺麗な蹴りを横っ面に叩き込まれて、軽い脳震盪から意識を取り戻せば山入波に馬乗りになられていた。
言い忘れたが、神に贔屓されまくった山入波は言わずもがな運動神経も段違いである。踵落としで瓦割る。サンドバッグ蹴り破る。後で病院に行こうと俺は思う。
「ふざけんなよ」「下手に出てりゃ」と山入波の呟いているのも遠かった。だから俺は勝手に喋る。

「こ…の、――変態野郎。ってお前…、…ちょっと、勃つかって…」

こんな頭くわんくわんしてて、気持ち良いも何もあるかい。山入波が俺のそれに絡めた指を、俺は呆れた思いで見ていた。蹴り飛ばされた時に倒れ込んだ仰向けの体勢のまま山入波を見上げると、山入波は俺を無視して俺のそれだけを見ていた。仇みたいな目で見られたら尚更勃つか――…って。

「勃ったじゃねえか、おい」
「不肖の息子でして…おかしいな……あ、あれ!?」
「やっぱこっちの方が正直じゃねえか――いい加減認めろよ」
「何をすか」
「お前俺のこと好きだろ?」
「冗談は下半身だけにしたらどうですかさっさと死ね気ッ持ち悪い」
「……お前ほんとむかつくわ」
「――ッちょ、痛い痛い痛い痛い痛い!!??お前じゃねえんだから勃つかボケ!!緩めろや!!!」
「大人しくしてねえと…は…折るからな?暴れんなよ…?」
「…ッの…」

山入波は一度はきつく握り締めたそれを、今度はいとおしむように指で撫でた。睨め付ける俺の視線を楽しそうに山入波は受け止めて腰を浮かして自分のズボンに手を掛けた。既にそれは半勃ちになっていて、下着を下げる時にぺちんと腹に当たっていた。ズボンと下着を纏めて膝まで下ろした山入波は、また俺の上に腰を下ろす。
――山入波の、一番気色悪いところは。

俺なんかのことが好きで、俺なんかのちんこしゃぶっておっ勃てて、ちんこ踏みにじられて興奮するようなところもだけど。犯したくて夜這いかけるんならまだわかるけど、

わざわざ俺なんかに犯されたくて、毎週のように夜這いをかけてくるところなのである。

「お前ほんと死ねよ…」
「…はは、腹上死なら吝かでもねえけど。じゃあ頑張ってよ」
「知るか勝手に動け」
「そんなん言っていいの?」
「つ、爪立てんなっつの…!うぜえ…」
「挿れるぐらいは俺がやってやるからさあ……んっと、よい、しょ……ッと…うぁ、ン、はッ…ああ」
「気色悪い声出すなっつー…!」

多分そもそも慣らしてあったんだろう。山入波が腰を下ろすと、俺のそれはいとも簡単に山入波に呑み込まれていった。言っておくが、俺が小さいからという訳じゃない。
俺のものを呑み込み切った山入波は不敵な、それでいて好色な笑みで俺を挑発するように見下ろした。ほら、動けよって。…調子に乗んな。こいつの図太さは一体どこから来てやがんだ。

「…マジむかつくわ」
「お互い様じゃねえ?」
「この変態はよ」
「それもお互い様」
「何で」
「だって俺ンこと好きでしょう」
「お前マジめんどくせーわ…――黙ってろよ」
「黙らせてえなら…」
「うっせーよ」