「おいベルナルド、冗談キツいぜ…」
「俺だって、これが冗談だったらどんなに良かったかと思うよ……クソ。こんなのアリか?」
「何で止めなかったんだよおい。何か、テキトーに理由つけて拒否れなかったのかよ」
「イヴァンやめろ。ベルナルドが悪いんじゃねえだろ」
「でもよー…」
「ジャンさん、どう、しましょうか」
「……アー、クソヤロ」

予想外、全くもって予想外。晴天の霹靂。寝耳に水。鳩に豆鉄砲。瓢箪から駒…は、ビックリするけど違うワ。
…ちくしょうあの野郎、全部パアにさせやがって。

「あーくそ!!ファック!!ファンクーロ!!」
「おい真似すんじゃねえよ」
「真似してねえよバカ!!…ああくそ、ざけんなよ、ルキーノ――!!!」

俺は握った拳を振り上げて――…力なく、下ろした。メチャクチャムカついたけど、それ以上にがっかりしていた。
今日まで、この数日――準備したのが全部パア。…ああ、くそ。俺はきっちり締めたネクタイを緩めると、本日のディナーテーブルに尻を乗せた。ここにディナーが現れることはなくなったが。それはもうベルナルドがキャンセルしたらしい。冷蔵庫の中でキンキンに冷えてる、爺様から貰った年代物のワインも…パアだ。またふつふつとやるせなさが込み上げてきて、俺は息を吐いた。
他の面々も、同じ気持ちのようだった。俺は三人を代わる代わる見つめて、肩を竦め笑って見せた。

「――今日は解散。どうしようもねえしな。お祝いはまた後日してやろうや」
「でもジャン。せっかくよー…」
「主賓が居なきゃどうにもなんねえだろイヴァン。ベルナルド、ルキーノとは連絡付かねえんだろ?」
「昼に連絡があって、それきりさ。無理矢理に黒服を付けておくべきだったよ…すまない」
「お前は悪くない。謝んなバカ――さあ、帰ってくれ」
「ジャンさんは?」
「俺?俺は、んー……いいんだよ。先に帰ってくれ」

渋る面々を追い出して扉を閉めれば。ここは俺――ボスの部屋。独り。今日のために押し込んだディナーテーブル。デスクの中にはプレゼント…俺は頭を掻いた。

「ルキーノの奴…」

一体どこに居やがるんだか。

ベルナルドに連絡があったのは昼のこと。所用があると出ていたルキーノからの電話をベルナルドが受ければ、
『悪い今日は帰れない』
と取り付く島もなく電話は切れた。理由も何も全くもって不明。

今日は7月29日。ルキーノの誕生日…慎ましく五人でサプライズパーティーなんて考えていた俺たち四人に、ルキーノはそれどころじゃないサプライズを与えやがったのだ。

「…………」

俺はテーブルから降りると、ごろりとソファに横になった。こんなことならサプライズなんて変なこと考えるより、普通に誘った方が良かったなと天井を見つめて思う。…まあ、もう遅い……
腕時計を外しながら時間を見れば、9時。『今日は帰れない』らしいのに、待っていたい馬鹿が俺だった。そもそもここに帰ってこないかもしれないのに。…腕時計をテーブルに投げて、俺は目を瞑った。





「おい起きろバカ。何やってんだこんな時間に。帰って寝ろ」
「……ふあ?」
「ふあ、じゃない。お前の家は別にあるだろうが――ああくそ。風呂も付いてないんだぞここには。良く泊まろうって気になるな!」
「――ルキーノ?」
「おう。お早うダーリン…はベルナルドの専売特許か」
「ルキーノ!?」
「騒ぐな五月蝿い。何時だと思ってんだ……」

ルキーノは溜め息を吐くと、俺の目の前に腕を翳した。殴られるかと一瞬身構え、そのせいで眠気も飛んでいったが。ルキーノは「アホ。俺がお前に紳士じゃなかったことがあるか?」と逆の手で時計を示した――2時。結構寝たな。

「ったく。送ってやるから、帰って寝ろよ」
「いいよもう…めんどいし」
「俺が許すか。全く…見に来て、正解だったな」

ルキーノは腕を俺の前から引くと、返す手で俺の髪に触れた。重い瞼で見たルキーノは床に膝を付いている。微かに、アルコールの匂い――シャツだっていつもよりよれている。

「…飲んできた?」
「まあな」
「……だから帰れないって?」
「誰が今日帰るか」

ルキーノは吐き捨てるように言うと、立ち上がって首を鳴らした。下から見上げる俺の視線に気付いて、「分かりやすすぎるんだよ」皮肉っぽく笑う。

「サプライズ?…見てりゃ、判る。特にイヴァンだな。ベルナルドは及第点。ジュリオは流石。ジャンはギリギリだ、精進しろ」
「……あーっと…」

お見通しだったわけだ、全部。それを見越してのドタキャン……てか、おい。

「何で嫌だったんだ?」
「そらなあ――お前。わからないか?」
「…………」

ルキーノはふーっと息を吐き。テーブルに腰を凭れた。俺もソファから身を起こして。ルキーノを見つめれば。ルキーノは弱りきった笑みを浮かべた。「俺、30だぜ?」知ってるわそんなん。

「30、30の大台だ……昨日の誕生日会なんか居てみろ、何を言われるかたまったもんじゃない。ジュリオは良い。だがベルナルドとイヴァン……駄目だあいつらは駄目だ。三十路とかあまつさえ『オヤジ』とか……誰が、帰るか!!」
「……はあ?」
「なんだその反応は!?こちらとらホントに…」

バリバリ頭を掻いて、ルキーノは俺の横に無理矢理座った。どうやら本気で悩んでいたらしいのに、俺は本音を隠すこともできず。

アホかと。

噛み付いてこようとしたルキーノを置いて、俺はソファを立った。デスクをごそごそやっている俺を、ルキーノが訝しげに見ていた――あ、あった。掌大のケースをルキーノの膝に投げた後、今度は冷蔵庫を開けた。…あ、これは駄目だわ。

「…カフス?」
「ぐらいなら送っても別に変じゃねえだろ?指輪はサイズがわかんねえし」
「ジャン、これ…」
「ただの貢物だよ。何でもねえ日のな――これも一応」

俺は冷蔵庫から出したそれも、ルキーノに投げつける…

「…お前これひどいぞ」
「わかんなかったんだよ」
「誰かに訊けよ」
「訊けるかアホ」
「お前これ、どこに入れてた」
「冷蔵庫」
「ねえよ!」

ルキーノはカフスをケースに戻して床にそっと置くと、もう一つのプレゼント――冷蔵庫に入れていたせいですっかり冷たくなって、乾燥した薔薇の花束――をしげしげと見つめた。「アンタがちゃんと帰ってさえ来てれば…」ルキーノは無視する。

「真っ赤な薔薇の花言葉は『愛情』――だが。こいつは随分しなびてる」
「倦怠期?」
「バカ」

そう言ってほくそ笑み花束を抱く姿は、花束がしなびててもサマになっている。俺のせいだけど。ルキーノは花束に鼻を埋めて、「冷蔵庫の匂いがする」と言わなくてもいいことを言った。だから「うるせえ三十路」俺も言わなくていいことを言った。